Hiking log vol.9 人生の縮図(鳥海山 湯の台コース)
人生一生あざみ坂。
支えてくれる花があるなら、それもまた悪くない。
山形県庄内平野に颯爽と聳える鳥海山。
山形県と秋田県に跨った標高2236mの東北第二の高峰であり、日本百名山の一つ。
大げさかもしれないが、それはまるで「私の人生の縮図」の様に楽しさや厳しさを経験させてくれる山だった。
”雪解け水の沢のせせらぎ”、”先へ進む勇気をくれる数多くの高山植物”、”度量を試すかの様な大雪渓”、”山からの最大の試練「あざみ坂」”。
ベテランハイカーから見たら笑われるかもしれないが、私の数少ない登山経験の中では、「人生の縮図の様な山」という表現が似合う。
私は勇気を出して、鳥海山の聖域へ足を踏み入れた。
支えてくれる花があるなら、それもまた悪くない。
山形県庄内平野に颯爽と聳える鳥海山。
山形県と秋田県に跨った標高2236mの東北第二の高峰であり、日本百名山の一つ。
大げさかもしれないが、それはまるで「私の人生の縮図」の様に楽しさや厳しさを経験させてくれる山だった。
”雪解け水の沢のせせらぎ”、”先へ進む勇気をくれる数多くの高山植物”、”度量を試すかの様な大雪渓”、”山からの最大の試練「あざみ坂」”。
ベテランハイカーから見たら笑われるかもしれないが、私の数少ない登山経験の中では、「人生の縮図の様な山」という表現が似合う。
私は勇気を出して、鳥海山の聖域へ足を踏み入れた。
遡ること約1年。
日本二百名山である栗駒山を早朝に登頂した際、その山頂より遠くに望む鳥海山があった。
出羽富士と呼ばれるように、まるで富士山のように見えた美しい山容に遠くから見ただけで自分は魅了されてしまった。
他の山々の名前はわからなかったが、山頂から綺麗に伸びた裾が特徴的ですぐにそれだとわかる。
ああ...美しい山だなと。
ただ、その頃の自分は力量もなく、よし!登ってやるという熱い気持ちは湧いてはこなかった。
しかし、それ以降に知り合った友達や偶然山で会話した人達、みんなが一目を置く山が鳥海山であり、思い出を語ってくれたことから少しずつ気にかかる存在になっていった。
私はあの栗駒山頂より望んだ美しい鳥海山しか知らない。
もっと近くで、自分の足で歩いたらさらに美しい姿を見ることができるのではないか、いつしか気になる山から、本命の山に変化していった。
私は年始に一つなにか現実的な目標を決めている。
2014年はスノーボードの北海道修行(ほぼ旅行だったが)を大晦日にクリアし、2015年はどうしようか考えていたが、鳥海山のことが忘れられなくなっていたため、この山に登頂をすることに決めた。
そして、それを実行できる好機は不意に訪れる。
日程、天候ともオールクリア。
私の登山はいつも急。もう慣れっこだけど、あまりにも急すぎて準備が揃っていない。
しかも、時刻は深夜0時を過ぎた頃だ。深夜のコンビニで行動食や飲料を確保、眠気予防には少々心細いが缶コーヒーを飲みほして一路山形を目指した。
深夜ではあったが、下道は使わず仙台から山形の酒田みなみインターまで有料道路を利用して一気に向かう。
なんとしても早朝5時前に到着したかった理由があったのだが、それは駐車場の問題。
今回登山の出発点に選んだ登山口は「滝ノ小屋登山口」。
酒田みなみインターから鳥海高原ラインを上るとある、とてもポピュラーな登山口だけに、その駐車場が混雑するとの事前情報があったためだ。
登山口の最寄の駐車場は約80台駐車できるが、早朝5時には満車になるとのこと。
途中、眠気に負けそうになったが、早朝4時を少し過ぎたあたりに登山口駐車場に到着した。
辺りは真っ暗な闇。
こんな時間に来ている登山者なんていないだろ、そう誰しもが思うかもしれないが、やはり先客は居る。
満車までにはまだまだ余裕があったが、ヘッドライトに照らされたナンバープレートを見るだけで他の登山者の力量を車越しに感じずにはいられない。
どの車も遠く関東圏からお越しのようだ。
それぞれの山に対する思い入れがきっとあるのだろうが、この駐車場にいる限り私の鳥海山に対する気持ちは誰よりもちっぽけだなと思わずにはいられない。
出発前にあった自信はすっかりなくなっていた。
そんな勝手な思い込みと街の灯りも届かない漆黒の闇、携帯も圏外と不安要素はいくらでも考えられた早朝4時。
寒さなのか、不安からなのか、体が小刻みに震えながらも着替えを済ませ、途中で購入した100円セールのオニギリを2個頬張ったころ、徐々に陽の光が差してきた。
車外から、他の登山者の熊鈴が聞こえてきた頃、人の気配に安堵し自分も車外へと出て靴を履き替えた。
飲料水の量は適量か、行動食はどの程度持つか、初めての山のためいつも以上に悩ましい。
防寒着をチョイスし、ルートを再度確認したらいよいよ鳥海山登山の一歩を踏み出す。
立派な駐車場の雰囲気から比べると、やや大人しめな入山口が出迎えてくれる。
いよいよ自分の足で念願の鳥海山にお邪魔させていただく。
鳥も鳴かない静かな登山道。
朝露に濡れた石畳に足を滑らさないように慎重に歩く。
この数歩で本日のコンディションがだいたい把握できる。
しっかり寝て準備しても足が重いときもあるが、今日は次々足が前に出る。
これは幸先がよさそうだ、そんな自分自身との会話を楽しみながらアイドリングをしていく。
入山してすぐに荒木沢に架かる橋を渡った。
その橋を渡り10分ほど歩くと町営の滝ノ小屋に着く。
滝ノ小屋は要予約で10月下旬まで宿泊も可能とのことだが、この時は人の気配はまったくなかった。
駐車場にもトイレはあるが、この山小屋にもトイレは完備されていてチップ制になっている。
百名山など入山者の多い山はトイレもきちんと整備されていて快適なのが嬉しい。
滝ノ小屋を過ぎると、そこからは景色を楽しみながら歩くことができた。
沢を横目に、時に沢を渡り、雪解け水の心地よい音色を聴きながら颯爽と進むことができる。
「白糸の滝」を遠目に眺めることもできた。
沢を過ぎると、今度は急な斜面が続く八丁坂へ至る。
八丁坂は急で、道幅も狭く、最初の難関と言えるが、木々や草の背丈は低く、気持ち良い風が吹き抜けてくる。
まだまだ序盤のため、この坂の苦労は感じなかったが、下山の際にこの坂にじわじわ体力を奪われるとは思ってもみなかった。
八丁坂を登りきると、河原宿へ出る。
時刻は午前6時10分。
駐車場ではたくさんの登山者を見かけたが、登山後にまだ誰一人として、すれ違ったり追い越されたりしない不思議。
この広い河原宿でも同様に人に会うことはできなかった。
河原宿にもトイレがあり、周囲も開けた場所のため休憩するには絶好の場所だ。
さらに横には小川が流れ、これから進む道の先に目を向けると「心字雪」と呼ばれる雪渓が見えるため、体力的にも精神的にも一息つけると言える。
河原宿を過ぎると、樹勢する高山植物の種類が増えていることに、植物に疎い私でも感じた。
高山植物はこの記事の最後にまとめるが、ニッコウキスゲやチョウカイアザミなどが目を楽しませてくれる。
河原宿から先はしばらく道幅が広く、歩きやすいがルート取りに多少迷う。
案内のための印は多数あるので迷うことはないが、それでも体力の消費を最小限にするためにより歩きやすいルートを選ぶ必要があると感じた。
見通しも良く、とにかく歩くことが楽しくて仕方ない。
河原宿を出発して40分、先ほど見えた心字雪の一つ目の雪渓へ着いた。
湯の台ルートでは2回雪渓登りがある。最初の大雪路、2回目の小雪路があり、登るというよりもトラバースする方が伝え方としては合っている。
写真は大雪路。
雪渓を進むに当たって、時期によっては軽アイゼンが必要だと思うが、今回は軽アイゼンは準備せずにストックを使いゆっくりと歩いた。
雪渓は広く、ゆっくりと進みたい。転倒しても滑り落ちたりはしないが、硬い雪面に体を打ち付けたら怪我をする可能性が高いので十分に注意が必要だ。
大雪路を渡りきったところで振り返って気づいたのだが、雪渓の下はこのような空洞に。
雪解け水が雪渓の下を流れる音が、ここでは心地よい音色とは思えなくなってしまう。
この上を歩いてきたと思うとゾッとする。雪渓を踏み抜かなくて本当に良かった。
冬山以外で雪渓歩きは月山(登山ではなくスノーボードで)以来未経験だったので、とても新鮮な体験をさせていただいた。
小雪路は、大雪路とは逆にルートが狭く、片側交互通行。
山小屋泊から下山する方々を待ってから渡る。
この方々が初めて遭遇した登山者となる。
小雪路を渡るといよいよ、今回の登山の一番の難関「あざみ坂」へと差し掛かる。
素敵な名前からは想像できないほど急な斜面が続き、一人で登る自分の心が何度も折れかかった。
よく参考にしている登山のガイド本によると、あざみ坂は「コースの中で最も辛抱を要する急坂だが、足元を飾る花々が大きな励みになるだろう」と記載されているが、花たちは引きこもり、一見さんの私には今回は励ましてはくれないようである。
それでも時折雲の隙間から見える大雪渓の白と、新緑とのギャップが美しく、足を前へ上へと押してくれる。
長い長い急坂を登りきると、外輪山の伏拝岳(ふしおがみだけ)へと到着。
この伏拝岳で既に標高2000mを越えている。
あとはこの外輪山を進み、まずは七高山を目指すが、この道のりがとにかく気持ち良い。
右手を見れば多くの高山植物、鮮やかな緑、左を見れば千蛇谷のむこうにある山頂御室小屋や新山が目に入る。
この景色の中歩くことができただけで、鳥海山に来て良かったと思えるほど素晴らしい。
気持ちよく歩いていると、突然険しい道が現れる。
若僧、浮かれるなよ!山が気を引き締めろと言っているようだった。
人一人分の道幅で、左側は谷。
もし足を滑らせたら、滑落して無傷での生還はありえないだろう。
この向こう側に落ちたらお終いとなる。
今一度気を引き締めて、進むといよいよ七高山(しちこうさん)が見えてきた。
初めて見た第一印象は、とにかくカッコイイ。無愛想だが知的で優しい一面もある、そんな感じを受けた。
間近で目にした七高山は天へ向かって伸びている「地球の果て」のような場所に見えた。
ちなみに鳥海山の一等三角点は、より高い新山ではなく七高山に置かれている。
七高山より谷を挟んで正面に見えるのが、鳥海山山頂の新山だ。
岩を積み上げた山は七高山とはまるで違う表情をしており、その2つの山が対峙している姿が面白い。
七高山から少し戻ると右側の千蛇谷へと下るルートがある。
一度谷へ降りてから、再度新山にへ登ることになるが、この下るルートが険しい。
落石もあれば滑落をしてもまったくおかしくない急な下りを慎重に進むと山頂御室小屋に出る。
山頂御室小屋を出たらあと急な岩場を一気に登り新山山頂へ。
この急な岩場も斜度があり、足も滑り易く、危険であった。
山頂は狭く、記念撮影をしたらすぐに後からくる登山者に譲らなければならない。
自分は山頂で記念撮影は撮らないのだが、優しいご夫妻が「せっかくだから撮ってあげるから」と一枚撮っていただいたが、作り笑顔の自分を見るのも面白い。
当日は残念ながら雲が厚く、庄内平野や日本海ははっきりとファインダー内に捉えることができなかったが、今回はとにかくこの場所に立てただけで200%満足。
下山は同じルートを通った。
下りのあざみ坂はなんとも心地よい。
なんてツンデレな坂なんだろう。
登頂した達成感と自信からか、景色もまた登りと違った気持ちで眺めることができて楽しい。
時間的にもまだまだ余裕があるので下りは時間をかけた。
河原宿で長めの休憩を取り、八丁坂へ進んだ。
この八丁坂から見える滝ノ小屋の姿がまたなんとも言えない。
森の中にぽつんと見える小屋は登山者に安心感を与えてくれる。
ただ、この頃になると足の筋肉疲労は限界に近く足の裏からふくらはぎにかけて熱を持っている。
一歩下る度に力が入らない足がガクガクと震える。
駐車場まであと20分のところで、再度の休憩。
休憩しなくても下山はできるが、まだこの山に留まりたい、そう思えて下山を一時放棄。
熱を帯びた足を冷やすために、裸足になり沢に入れた。
ついでに冷やしたアミノバイタルがまた美味い。
そして、このわざわざ下山間近で休んだことが、その後とても嬉しい出会いにつながった。
休んでいたら珍しく後方から登山者が下りてきたが、この方こそ嬉しい出会い。
年は同じく30代前半の男性で、その時は挨拶をして、彼は私を追い抜き先を急いだ。
長めの休憩を終えて、山を惜しみつつ下山。
最後の沢以外はずっと気を張っていたが、登山靴の紐を緩めるのと同時に心の緊張も解けていった。
その後、自分にしては珍しくその余韻に浸りたいなと思い、登山口近くの温泉に行くことに。
選んだ温泉はこちら。
鳥海山荘というとても立派な外観だが日帰り入浴が可能。
露天風呂には塀などがなく目の前はただただ草原が続く。
星空を観察しながら入浴ができるという、余計な街明かりがないここだからこそできる体験がセールスポイント。
そして、この温泉に立ち寄るという選択をした自分を褒めたい。
先ほど、沢ですれ違った方とまさかの再会。
普段キャンプでも人に声をまったくかけない自分が、勇気を出して声をかけたら、相手も覚えていて一気に会話が弾む。
山の話、出身や仕事の話、グレートトラバースの話、話したいことがお互いありすぎてのぼせてしまうほど。
風呂を上がっても、ロビーでお揃いのドリンクを買い2時間ほど話し込んでしまった。
彼は山を登るために仕事をしているような方で、登山を奪ったら灰になるんだろうなと思った。
北アルプスの山はほとんど制覇、富士山も0合目から登り、登る山がなくなったから東北にきたとのこと。
お金が貯まったらマッキンリーに挑戦したいとも言っていた。
今日は車中泊して明日は月山、明後日もどこかに登ってから自宅がある横浜に帰るとのこと。
もう、耳にする話全てが新鮮で、自分には刺激が強すぎる。
そんな彼とLINEを交換して惜しみつつ別れた。
翌日予定がなかったら間違いなく一緒に登山していただろう。
むしろ一緒の車で朝まで話し込んだかもしれない。
鳥海山、登山口からは想像できなかった奥行きと多彩な表情の数々を見せてくれた。
決して他の山が見劣りするわけではないが、やはり別格だと思う。
具体的に何が?と聞かれると難しいが、歩いているときの気持ちが違う。
どんなに苦しい坂や、危険な箇所も勇気を湧き出させてくれる何かがある。
山岳信仰の対象として古くから人々に崇められてきたことは、疑う余地もないぐらいに共感できる。
同じ東北にこれほど素晴らしい山があるのだから北海道や北アルプスにもまだ見ぬ多数の名峰があるのだろう。
まだまだ登山は止められそうにない。
鳥海山には自然だけでなく、新たな人との出会いをさせてくれたことに心から感謝したい。
今回の登山ルート
登山日 2015年8月12日
登山口 滝ノ小屋登山口
登山ルート 湯ノ台ルート
登山開始 午前5時00分
滝ノ小屋 午前5時15分
河原宿 午前6時10分
大雪路 午前6時50分
小雪路 午前7時25分
七高山頂 午前9時15分
新山山頂 午前10時00分
駐車場着 午後2時50分
合計 9時間50分
総距離 約11㎞
※携帯電話 登山口よりソフトバンク圏外(他のキャリアは不明)
鳥海山の高山植物
今回の登山ルートで確認できた高山植物の一部をご紹介。
実際はもっともっと種類が多い。
チョウカイアザミ
ホソバイワベンケイ
タカネツリガネニンジン
ヨツバシオガマ
シロバナトウウチソウ
ニッコウキスゲ
チングルマ
ハクサンボウフウ
モミジカラマツ
ウゴアザミ
イワカガミ
参考書籍
記事作成の過程で、次の書籍を参考にさせていただきました。
○新潮文庫 深田久弥著 日本百名山
○JTBパブリッシング 日本百名山 山あるきガイド上
写真
カメラ:富士フイルムX-M1
レンズ:フジノンXF27mmF2.8
最後までお読みいただきありがとうございました。
また次の山でお会いしましょう。
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日本二百名山である栗駒山を早朝に登頂した際、その山頂より遠くに望む鳥海山があった。
出羽富士と呼ばれるように、まるで富士山のように見えた美しい山容に遠くから見ただけで自分は魅了されてしまった。
他の山々の名前はわからなかったが、山頂から綺麗に伸びた裾が特徴的ですぐにそれだとわかる。
ああ...美しい山だなと。
ただ、その頃の自分は力量もなく、よし!登ってやるという熱い気持ちは湧いてはこなかった。
しかし、それ以降に知り合った友達や偶然山で会話した人達、みんなが一目を置く山が鳥海山であり、思い出を語ってくれたことから少しずつ気にかかる存在になっていった。
私はあの栗駒山頂より望んだ美しい鳥海山しか知らない。
もっと近くで、自分の足で歩いたらさらに美しい姿を見ることができるのではないか、いつしか気になる山から、本命の山に変化していった。
私は年始に一つなにか現実的な目標を決めている。
2014年はスノーボードの北海道修行(ほぼ旅行だったが)を大晦日にクリアし、2015年はどうしようか考えていたが、鳥海山のことが忘れられなくなっていたため、この山に登頂をすることに決めた。
そして、それを実行できる好機は不意に訪れる。
日程、天候ともオールクリア。
私の登山はいつも急。もう慣れっこだけど、あまりにも急すぎて準備が揃っていない。
しかも、時刻は深夜0時を過ぎた頃だ。深夜のコンビニで行動食や飲料を確保、眠気予防には少々心細いが缶コーヒーを飲みほして一路山形を目指した。
深夜ではあったが、下道は使わず仙台から山形の酒田みなみインターまで有料道路を利用して一気に向かう。
なんとしても早朝5時前に到着したかった理由があったのだが、それは駐車場の問題。
今回登山の出発点に選んだ登山口は「滝ノ小屋登山口」。
酒田みなみインターから鳥海高原ラインを上るとある、とてもポピュラーな登山口だけに、その駐車場が混雑するとの事前情報があったためだ。
登山口の最寄の駐車場は約80台駐車できるが、早朝5時には満車になるとのこと。
途中、眠気に負けそうになったが、早朝4時を少し過ぎたあたりに登山口駐車場に到着した。
辺りは真っ暗な闇。
こんな時間に来ている登山者なんていないだろ、そう誰しもが思うかもしれないが、やはり先客は居る。
満車までにはまだまだ余裕があったが、ヘッドライトに照らされたナンバープレートを見るだけで他の登山者の力量を車越しに感じずにはいられない。
どの車も遠く関東圏からお越しのようだ。
それぞれの山に対する思い入れがきっとあるのだろうが、この駐車場にいる限り私の鳥海山に対する気持ちは誰よりもちっぽけだなと思わずにはいられない。
出発前にあった自信はすっかりなくなっていた。
そんな勝手な思い込みと街の灯りも届かない漆黒の闇、携帯も圏外と不安要素はいくらでも考えられた早朝4時。
寒さなのか、不安からなのか、体が小刻みに震えながらも着替えを済ませ、途中で購入した100円セールのオニギリを2個頬張ったころ、徐々に陽の光が差してきた。
車外から、他の登山者の熊鈴が聞こえてきた頃、人の気配に安堵し自分も車外へと出て靴を履き替えた。
飲料水の量は適量か、行動食はどの程度持つか、初めての山のためいつも以上に悩ましい。
防寒着をチョイスし、ルートを再度確認したらいよいよ鳥海山登山の一歩を踏み出す。
立派な駐車場の雰囲気から比べると、やや大人しめな入山口が出迎えてくれる。
いよいよ自分の足で念願の鳥海山にお邪魔させていただく。
鳥も鳴かない静かな登山道。
朝露に濡れた石畳に足を滑らさないように慎重に歩く。
この数歩で本日のコンディションがだいたい把握できる。
しっかり寝て準備しても足が重いときもあるが、今日は次々足が前に出る。
これは幸先がよさそうだ、そんな自分自身との会話を楽しみながらアイドリングをしていく。
入山してすぐに荒木沢に架かる橋を渡った。
その橋を渡り10分ほど歩くと町営の滝ノ小屋に着く。
滝ノ小屋は要予約で10月下旬まで宿泊も可能とのことだが、この時は人の気配はまったくなかった。
駐車場にもトイレはあるが、この山小屋にもトイレは完備されていてチップ制になっている。
百名山など入山者の多い山はトイレもきちんと整備されていて快適なのが嬉しい。
滝ノ小屋を過ぎると、そこからは景色を楽しみながら歩くことができた。
沢を横目に、時に沢を渡り、雪解け水の心地よい音色を聴きながら颯爽と進むことができる。
「白糸の滝」を遠目に眺めることもできた。
沢を過ぎると、今度は急な斜面が続く八丁坂へ至る。
八丁坂は急で、道幅も狭く、最初の難関と言えるが、木々や草の背丈は低く、気持ち良い風が吹き抜けてくる。
まだまだ序盤のため、この坂の苦労は感じなかったが、下山の際にこの坂にじわじわ体力を奪われるとは思ってもみなかった。
八丁坂を登りきると、河原宿へ出る。
時刻は午前6時10分。
駐車場ではたくさんの登山者を見かけたが、登山後にまだ誰一人として、すれ違ったり追い越されたりしない不思議。
この広い河原宿でも同様に人に会うことはできなかった。
河原宿にもトイレがあり、周囲も開けた場所のため休憩するには絶好の場所だ。
さらに横には小川が流れ、これから進む道の先に目を向けると「心字雪」と呼ばれる雪渓が見えるため、体力的にも精神的にも一息つけると言える。
河原宿を過ぎると、樹勢する高山植物の種類が増えていることに、植物に疎い私でも感じた。
高山植物はこの記事の最後にまとめるが、ニッコウキスゲやチョウカイアザミなどが目を楽しませてくれる。
河原宿から先はしばらく道幅が広く、歩きやすいがルート取りに多少迷う。
案内のための印は多数あるので迷うことはないが、それでも体力の消費を最小限にするためにより歩きやすいルートを選ぶ必要があると感じた。
見通しも良く、とにかく歩くことが楽しくて仕方ない。
河原宿を出発して40分、先ほど見えた心字雪の一つ目の雪渓へ着いた。
湯の台ルートでは2回雪渓登りがある。最初の大雪路、2回目の小雪路があり、登るというよりもトラバースする方が伝え方としては合っている。
写真は大雪路。
雪渓を進むに当たって、時期によっては軽アイゼンが必要だと思うが、今回は軽アイゼンは準備せずにストックを使いゆっくりと歩いた。
雪渓は広く、ゆっくりと進みたい。転倒しても滑り落ちたりはしないが、硬い雪面に体を打ち付けたら怪我をする可能性が高いので十分に注意が必要だ。
大雪路を渡りきったところで振り返って気づいたのだが、雪渓の下はこのような空洞に。
雪解け水が雪渓の下を流れる音が、ここでは心地よい音色とは思えなくなってしまう。
この上を歩いてきたと思うとゾッとする。雪渓を踏み抜かなくて本当に良かった。
冬山以外で雪渓歩きは月山(登山ではなくスノーボードで)以来未経験だったので、とても新鮮な体験をさせていただいた。
小雪路は、大雪路とは逆にルートが狭く、片側交互通行。
山小屋泊から下山する方々を待ってから渡る。
この方々が初めて遭遇した登山者となる。
小雪路を渡るといよいよ、今回の登山の一番の難関「あざみ坂」へと差し掛かる。
素敵な名前からは想像できないほど急な斜面が続き、一人で登る自分の心が何度も折れかかった。
よく参考にしている登山のガイド本によると、あざみ坂は「コースの中で最も辛抱を要する急坂だが、足元を飾る花々が大きな励みになるだろう」と記載されているが、花たちは引きこもり、一見さんの私には今回は励ましてはくれないようである。
それでも時折雲の隙間から見える大雪渓の白と、新緑とのギャップが美しく、足を前へ上へと押してくれる。
長い長い急坂を登りきると、外輪山の伏拝岳(ふしおがみだけ)へと到着。
この伏拝岳で既に標高2000mを越えている。
あとはこの外輪山を進み、まずは七高山を目指すが、この道のりがとにかく気持ち良い。
右手を見れば多くの高山植物、鮮やかな緑、左を見れば千蛇谷のむこうにある山頂御室小屋や新山が目に入る。
この景色の中歩くことができただけで、鳥海山に来て良かったと思えるほど素晴らしい。
気持ちよく歩いていると、突然険しい道が現れる。
若僧、浮かれるなよ!山が気を引き締めろと言っているようだった。
人一人分の道幅で、左側は谷。
もし足を滑らせたら、滑落して無傷での生還はありえないだろう。
この向こう側に落ちたらお終いとなる。
今一度気を引き締めて、進むといよいよ七高山(しちこうさん)が見えてきた。
初めて見た第一印象は、とにかくカッコイイ。無愛想だが知的で優しい一面もある、そんな感じを受けた。
間近で目にした七高山は天へ向かって伸びている「地球の果て」のような場所に見えた。
ちなみに鳥海山の一等三角点は、より高い新山ではなく七高山に置かれている。
七高山より谷を挟んで正面に見えるのが、鳥海山山頂の新山だ。
岩を積み上げた山は七高山とはまるで違う表情をしており、その2つの山が対峙している姿が面白い。
七高山から少し戻ると右側の千蛇谷へと下るルートがある。
一度谷へ降りてから、再度新山にへ登ることになるが、この下るルートが険しい。
落石もあれば滑落をしてもまったくおかしくない急な下りを慎重に進むと山頂御室小屋に出る。
山頂御室小屋を出たらあと急な岩場を一気に登り新山山頂へ。
この急な岩場も斜度があり、足も滑り易く、危険であった。
山頂は狭く、記念撮影をしたらすぐに後からくる登山者に譲らなければならない。
自分は山頂で記念撮影は撮らないのだが、優しいご夫妻が「せっかくだから撮ってあげるから」と一枚撮っていただいたが、作り笑顔の自分を見るのも面白い。
当日は残念ながら雲が厚く、庄内平野や日本海ははっきりとファインダー内に捉えることができなかったが、今回はとにかくこの場所に立てただけで200%満足。
下山は同じルートを通った。
下りのあざみ坂はなんとも心地よい。
なんてツンデレな坂なんだろう。
登頂した達成感と自信からか、景色もまた登りと違った気持ちで眺めることができて楽しい。
時間的にもまだまだ余裕があるので下りは時間をかけた。
河原宿で長めの休憩を取り、八丁坂へ進んだ。
この八丁坂から見える滝ノ小屋の姿がまたなんとも言えない。
森の中にぽつんと見える小屋は登山者に安心感を与えてくれる。
ただ、この頃になると足の筋肉疲労は限界に近く足の裏からふくらはぎにかけて熱を持っている。
一歩下る度に力が入らない足がガクガクと震える。
駐車場まであと20分のところで、再度の休憩。
休憩しなくても下山はできるが、まだこの山に留まりたい、そう思えて下山を一時放棄。
熱を帯びた足を冷やすために、裸足になり沢に入れた。
ついでに冷やしたアミノバイタルがまた美味い。
そして、このわざわざ下山間近で休んだことが、その後とても嬉しい出会いにつながった。
休んでいたら珍しく後方から登山者が下りてきたが、この方こそ嬉しい出会い。
年は同じく30代前半の男性で、その時は挨拶をして、彼は私を追い抜き先を急いだ。
長めの休憩を終えて、山を惜しみつつ下山。
最後の沢以外はずっと気を張っていたが、登山靴の紐を緩めるのと同時に心の緊張も解けていった。
その後、自分にしては珍しくその余韻に浸りたいなと思い、登山口近くの温泉に行くことに。
選んだ温泉はこちら。
鳥海山荘というとても立派な外観だが日帰り入浴が可能。
露天風呂には塀などがなく目の前はただただ草原が続く。
星空を観察しながら入浴ができるという、余計な街明かりがないここだからこそできる体験がセールスポイント。
そして、この温泉に立ち寄るという選択をした自分を褒めたい。
先ほど、沢ですれ違った方とまさかの再会。
普段キャンプでも人に声をまったくかけない自分が、勇気を出して声をかけたら、相手も覚えていて一気に会話が弾む。
山の話、出身や仕事の話、グレートトラバースの話、話したいことがお互いありすぎてのぼせてしまうほど。
風呂を上がっても、ロビーでお揃いのドリンクを買い2時間ほど話し込んでしまった。
彼は山を登るために仕事をしているような方で、登山を奪ったら灰になるんだろうなと思った。
北アルプスの山はほとんど制覇、富士山も0合目から登り、登る山がなくなったから東北にきたとのこと。
お金が貯まったらマッキンリーに挑戦したいとも言っていた。
今日は車中泊して明日は月山、明後日もどこかに登ってから自宅がある横浜に帰るとのこと。
もう、耳にする話全てが新鮮で、自分には刺激が強すぎる。
そんな彼とLINEを交換して惜しみつつ別れた。
翌日予定がなかったら間違いなく一緒に登山していただろう。
むしろ一緒の車で朝まで話し込んだかもしれない。
鳥海山、登山口からは想像できなかった奥行きと多彩な表情の数々を見せてくれた。
決して他の山が見劣りするわけではないが、やはり別格だと思う。
具体的に何が?と聞かれると難しいが、歩いているときの気持ちが違う。
どんなに苦しい坂や、危険な箇所も勇気を湧き出させてくれる何かがある。
山岳信仰の対象として古くから人々に崇められてきたことは、疑う余地もないぐらいに共感できる。
同じ東北にこれほど素晴らしい山があるのだから北海道や北アルプスにもまだ見ぬ多数の名峰があるのだろう。
まだまだ登山は止められそうにない。
鳥海山には自然だけでなく、新たな人との出会いをさせてくれたことに心から感謝したい。
今回の登山ルート
登山日 2015年8月12日
登山口 滝ノ小屋登山口
登山ルート 湯ノ台ルート
登山開始 午前5時00分
滝ノ小屋 午前5時15分
河原宿 午前6時10分
大雪路 午前6時50分
小雪路 午前7時25分
七高山頂 午前9時15分
新山山頂 午前10時00分
駐車場着 午後2時50分
合計 9時間50分
総距離 約11㎞
※携帯電話 登山口よりソフトバンク圏外(他のキャリアは不明)
鳥海山の高山植物
今回の登山ルートで確認できた高山植物の一部をご紹介。
実際はもっともっと種類が多い。
チョウカイアザミ
ホソバイワベンケイ
タカネツリガネニンジン
ヨツバシオガマ
シロバナトウウチソウ
ニッコウキスゲ
チングルマ
ハクサンボウフウ
モミジカラマツ
ウゴアザミ
イワカガミ
参考書籍
記事作成の過程で、次の書籍を参考にさせていただきました。
○新潮文庫 深田久弥著 日本百名山
○JTBパブリッシング 日本百名山 山あるきガイド上
写真
カメラ:富士フイルムX-M1
レンズ:フジノンXF27mmF2.8
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