11月下旬、場所は福島県。
福島県を代表すると言っても過言ではない名峰「磐梯山」
やはり、一見して「あの山だ」と誰しもが分かる山が大好きだ。
数時間も山に入って、やっとその山容が確認できる山もまた秘境を発見したかのような魅力があるが、どこからでも、どの方角からでも確認できる山は、その麓に住む人々に取って安らぎと、日々の糧を与えてくれるのではないだろうか。
自分も住居を構えるのならば、好きな山が朝日と共に毎朝目に飛び込んでくる場所にしたいと思っている。
磐梯山は明治21年(1888年)に大爆発を起こし、その際の爆発した火山体によって桧原湖や小野川湖、五色沼等の幾つかの湖ができたことは有名だ。
爆発により山体崩壊した磐梯山は猪苗代湖側の表磐梯から見ると、まさに「磐梯山」とわかる端正な顔立ちの凛々しい姿をしているが、桧原湖側の裏磐梯からは、山体崩壊の傷跡が今でもそれとわかるほど、喧嘩後の様な男臭さが感じられる。
表と裏、この二面性があるのも磐梯山の魅力だと思う。
私が、スノーボードでよく利用させていただいている福島県のスキー場からは見事に磐梯山が望むことができる。
雪化粧をした磐梯山はそれはそれは見事で、スノーボードを楽しんでいても磐梯山が美しく見える場所ではついつい止まってしまう。
写真はアルツ磐梯の猫魔ボール付近より望んだ磐梯山
暖冬暖冬と騒がれた2015年冬。
もう雪が降っていてもおかしくない磐梯山の肌はまだ薄茶色のままだった。
今まで、磐梯山を見上げてばかりで、一度も登ったことがなかった。
磐梯山がとても好きで語ってくれた仲間の影響もあり、まだ雪も積もっていないのならば一度登ってみるかと、場所を磐梯山に決めた。
早朝、磐梯高原猪苗代スキー場に到着。
今回は、この猪苗代スキー場の表登山口から登り始める猪苗代コースで登頂することにした。
スキー場ならば、道も開けていて見晴らしも良いのではないかという目論見もある。
そもそも、本来ならば比較的登りやすい八方台コースを登りたかったが、この時期は八方台がある磐梯山ゴールドラインが閉鎖するため、表登山口を選んだ。
この登山コースはスキー場を直登するため急登もあるが、比較的シンプルだと感じていたが、これは間違いだった。
いや、シンプルなのは間違いないが、自分の考えが甘かった。
表登山口までは無事に到着できたが、登山スタート食後に早速道がわからなくなってしまった。
それは「登山道」というものがはっきりとない。
「登山者の皆様へ」と書かれた注意書きはあるものの、登り始めがわからない。
結果、右往左往しながら周辺を調べると注意書きの看板に向かって左手側へ回り込むと踏み跡があったのでここから登り始めることにした。
写真に見えるのは「葉山第二初心者リフト」この手前を左手に進み、まずは750mの「葉山ゲレンデ」を登りきる。
葉山ゲレンデを登りきり、左へ半円を描くようなコース「葉山コース」を進むと、再度開けたゲレンデに出る。
このゲレンデの登りがとにかくきつい。
冬に滑りに来た際も、この急坂に息子が苦戦していたのを思い出した。
曖昧な記憶だが、非圧雪されたコースは昼過ぎにはボコボコで、さほどスキーが上達していなかった息子の前をボードで雪面を慣らしながら滑った記憶がある。
このゲレンデ上部の名前が「お馬返しゲレンデ」
名前の意味なんて聞くまでもなく、そこが急坂であることがわかる。
「馬返し」は山の起点として例えでよく耳にする名だった。
急坂で馬でも登れない、道が険しくなり乗ってきた馬を返す場所という表現で使われる。
右の太ももがジワジワ疲労してくるのを感じる。
登りきったところで、またしても登山道を見失ってしまった。
あまりに広大なゲレンデから入山する”小さな入り口”がわからなかったのだ。
簡単な登山になるだろうと、若干の油断が大きなロスになってしまう。
この時、私は登りきったところで、すぐ左側にあった登山道に気づかずに、右側へ進んだ。
右側へ進み、連絡通路を進みミネロエリア(猪苗代スキー場は”中央エリア”と”ミネロエリア”と二つのエリアで構成されている)へ進みこれ以上進めないところで、間違いに気づいた。
再度引き返してみると、簡単に登山道を発見して、無事磐梯山の中心部へと入っていった。
スノーボードでは何度も滑ったコースだったため精神的な不安は少なかったが、無駄に体力を消費してしまったことが悔やまれる。
スキー場から登山道に入る場所には、登山者数をカウントする装置が目印となる。
ただ、下山時には撤去されていたので、時期によっては目印にならない事が考えられる。
写真の点線が登山道。私は右側にある小屋の前を通り、隣のゲレンデへ向かってしまった。
入山するとしばらくは幅の狭い道を登る。
展望はあまりないが、途中途中に案内の看板があり、道迷いはまずない。
時期や天候も影響してか、まだ出会う登山者はおらず静かな登山だった。
さらに進むと、足元が急に歩きやすくなった。
相変わらず道幅は狭いものの、平らな道は走るととても気持ち良かった。
ストックを持つ手を緩く握り直す、肩をだらんと脱力し、歩幅を小さくして走ると長い距離を走れる。
少し風は強いが、走るには丁度良い体感温度になった。
この辺りまで登ったところで、やっと登山者にすれ違う。
朝の早い時間に下山者と突然すれ違うのはやはり驚く。
自分は無意識に歌いながら歩いている時があるので、そんな時に出会うと恥ずかしい。
何名かとすれ違ったが、一人の60歳代と思われる男性に声をかけられた。
なんでも東京から連泊で登山にいらしたとのこと。
「この先、稜線に出ると強風で危険だよ。ピッケルでも欲しいくらいだ。」
続けて男性は私に忠告してくれた。
「本当に危ないから、無理をしない方がいい。山は逃げないんだから。」
私はお礼を言い、まずは稜線まで行ってそれから判断しますと返答して立ち去ろうとした。
別れ際に男性は「しつこいようだけど、山は逃げないからね。」
そう言葉を残して下山して行った。
確かに山は逃げない。
ただ、人生で登れる山の数は限られている。
気候や体力など総合的に判断して登れる時は、例え展望が期待できなくても登ることにしていた。
標高1400mを過ぎると、風も強くなり、霧も出てきた。
沼の平の湿原付近では、霧が不思議な空間を作りだしていた。
少し怖くも感じる、樹木がハリーポッターの様な世界を演出している。
問題の稜線に出た。
風は強いものの、体が流される程ではなく、視界も100m先はなんとか確認できる。
道幅も広く誤って滑落の危険性も少なかったため、先へ進むことにした。
この稜線からは眼下に広がる桧原湖や五色沼が見えるはずだが、霧でまったく見えなかった。
弘法清水小屋を過ぎると最後の登りとなる。
清水小屋付近では数名の登山者とすれ違った。
こんな悪天候な中、旅行者と思われるアジア系の方々が登山をされていた。
片言ではあったが、「こんにちは」と挨拶をしてくれた事が嬉しかった。
清水小屋過ぎの登りの足元は岩で、濡れているため滑りやすく、しかも急坂の連続で、最後の頑張りが必要だった。
急坂を30分ほど登ると山頂に着いた。
山頂は岩を撒き散らしたかのような場所で、本来は360度の大展望なのだが今回は濃い霧で残念な結果になってしまった。
山頂まで登ったという実感はまるでなかったが、そこに本来見えるであろう猪苗代湖をはじめとした表磐梯、裏磐梯の景色を想像しながら休憩した。
それでも下山中には霧も少しだけ晴れて、登りでは見えなかった景色が目に飛び込んできた。
稜線からは桧原湖と、その手前に美しい色を出した沼は恐らく「銅沼」だろうか。
そして、巨兵の様な櫛ケ峰も姿を現してくれた。
磐梯山下山途中より見る櫛ケ峰は手前の稜線と相まって本当に見事。
櫛ケ峰を横目にして歩いていると、登ってくる見覚えがある一人の男性がいる。
そう、私が登山中にすれ違った男性だ。
「山は逃げないよ」と忠告してくれた男性が再度登ってきた。
「スキー場まで下ったたんだけどさ、風弱くなったから行けるんじゃないかと思ってまた登ったんだ」
おじさん、あなたさっき私に言った言葉はどこにいったんだ...
私を試しているか?と思ってしまうほど、コントのような展開に笑いを堪えるのが大変だった。
私はおじさんに忠告した「山は逃げませんよ!」
…もちろん心の中での話だが。
満面の笑みのおじさんを見送り、自分は下山した。
やっと登ることができた磐梯山。
天候が優れずに景色を100%楽しむことはできなかったが、スキー場、湿原、樹林帯と景観の移り変わりを感じることができた。
稜線を境に表から裏へと切り替わると、荒々しい磐梯山の姿があった。
僅か、130年ほど前に噴火したばかりの山は今もその名残からか、遠くから見た美しいイメージとは反対に若干の恐怖さえ感じているのが自分でもわかる。
登山途中の道迷いも含めて、自然の厳しさや優しさ、それに向き合う心構え、様々な事をもう一度考えさせられる一日となってしまった。
磐梯山登山は不完全燃焼となってしまったため、360度の大展望を期待してまたお邪魔させていただこうと思う。
下山後は今晩の野営地となる、裏磐梯にある小野川湖畔へ向かった。
今回の登山ルート
登山日 2015年11月21日
登山口 表登山口(磐梯高原 猪苗代スキー場)
登山ルート 猪苗代スキー場〜お馬返しゲレンデより入山〜沼ノ平〜弘法清水小屋〜磐梯山山頂
登山開始 午前7時30分
お馬返しゲレンデより入山 午前9時40分(道迷いのため40分ロス)
天の庭 午前9時55分
沼ノ平 午前10時55分
稜線 午前11時20分
弘法清水小屋 午前11時50分
磐梯山山頂 午後0時20分(滞在30分)
表登山口 午後3時00分 下山
合計時間 7時間30分
総距離 約12.7km
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